
協賛
地域でイベントを立ち上げる際、大きな壁となるのが「子どもたちの巻き込み方」です。「地元の学校にお願いすれば、きっと協力してもらえるはず」――そう期待して声をかけたものの、なかなか良い返事をもらえず、心が折れそうになった経験はありませんか?
今回は、神社を舞台にしたキャンドルアートイベント「神社に火を灯せ」の協賛サポーター・小川貴之さんにインタビュー。最初は「参加希望者ゼロ」という挫折を味わいながらも、今では区内すべての中学校を巻き込むまでに至った、学校との連携にまつわる"泥臭い裏話"と実践的なノウハウを伺いました。
イベントの立ち上げ当初、小川さんは開催まで残り1週間というタイミングで、地元中学校の美術部顧問の先生に「キャンドルアートに協力してくれないか」と声をかけました。
「運よく、すごく意欲的な先生だったんです。日没時に学校から離れたお宮まで生徒を引率して、キャンドルの点灯まで付き合ってくれました」
初回は大成功。しかし、手放しでは喜べませんでした。冷静に振り返ると、日没後の引率や休日の対応は、先生の「時間外労働」にあたります。個人の熱意と善意に寄りかかった運用だったのです。
その懸念は、翌年すぐに現実のものとなります。熱心だった顧問の先生が異動になり、新しい顧問の先生にお願いに行ったところ、「今はそういう(イベントに協力できる)状態ではありません」とはっきりと断られてしまったのです。
「必ずしも『声をかけたから』といって、協力してくれるわけではない。顧問の先生の心が動かない限りは難しいんだなと、身に染みて感じましたね」
個人の熱意に依存するやり方では、イベントを長く続けていくことはできない。小川さんがそう痛感した最初の出来事でした。
「現場の先生が忙しいなら、トップに話を通せばいいのではないか」
そう考えた小川さんは、別の中学校の校長先生へ直談判に向かいました。その中学校では協力を得られたため、さらに近隣の小学校も紹介してもらい、小学校の校長先生とも直接協議の場を設けることができました。
「授業の時間を使って絵を描いてもらうのは難しいので、希望する児童のみに参加してもらう形にしましょう」
校長先生との間で話はまとまり、募集のプリントが配布されました。ところが、期日になって学校から来た連絡は、予想外のものでした。
「『参加希望の児童は1人もいませんでした』と連絡が来たんです。あ、これはかわされたなと思いました(笑)」
後日談としてわかったのは、校長先生は了承していたものの、副校長や現場の先生たちにはイベントの趣旨や詳細がまったく共有されていなかったということ。トップ同士で合意しても、現場の理解と協力体制がなければ、子どもたちには決して届かないという厳しい現実でした。
こうした失敗を通じて、小川さんは学校という組織の「リアルな事情」を理解し始めます。
まず、先生たちは日々膨大な業務に追われており、時間外の引率や指導をお願いするのは現実的ではないこと。
そしてもう一つ、「神社に火を灯せ」というイベント特有の難しさもありました。神社という「宗教施設」での展示になるため、学校行事として全員参加にすると、保護者から懸念(クレーム)が出る可能性があるのです。
「学校側が責任を負いきれない部分があるんです。だからこそ、学校全体で強制的に参加してもらうのではなく、あくまで『参加したい子だけが参加する』という完全な希望制(手挙げ方式)を徹底するようにしました」
相手の事情やリスクを想像し、参加のハードルを極力下げる。このスタンスの転換が、大きなターニングポイントになりました。
学校側の事情がわかってからは、アプローチの方法も劇的に変えました。
最も変えたのは、「口約束をやめること」です。
「最初は必ず顔を合わせて、コミュニケーションを取りながら思いを伝えます。その方が心を動かしやすいですから。でも、それと同時に必ず『企画書』などの文書を添えるようにしました」
校長先生が「いいね」と思っても、それを現場の先生に説明できなければ企画は止まってしまいます。「いつ・どこで・誰が・何を・どうやってするのか」が明確に書かれた文書があれば、先生たちが校内で共有しやすく、稟議もスムーズに進みます。
「あと、連絡手段も工夫しています。最初は対面や電話ですが、その後の細かなやり取りはメールを使うようにしました。先生の時間を奪わないためと、言った・言わないのトラブルを防ぎ、記録に残すためです」
「思い」を伝える対面と、「業務」を円滑に進めるための文書やメール。この使い分けが、学校との信頼関係を築くカギとなりました。
「相手の事情に配慮し、仕組みを整える」という地道な努力は、やがて大きな実を結びます。
「去年、旭区にある全11校の中学校、その全校が参加するイベントを組むことができたんです。11校すべての校長先生が首を縦に振ってくれました。本当に運が良かったと思いますが、今までやってきたことが少しずつ形になってきたのかなと感じています」
思いつきで声をかけるのではなく、学校側の困りごとを想像し、先生が動きやすい環境(企画書、希望制、業務外負担の軽減)を整えること。これこそが、11校もの学校を巻き込む原動力でした。
地域と学校をつなぐのに必要なのは、情熱だけではありません。「相手への想像力」と「一枚の企画書」が、固く閉ざされたように見える学校の扉を開くカギになります。
「地域の子どもたちを巻き込みたい」と考えている皆さんも、まずは近所の学校の先生が"何に困っているか"を想像し、負担のない関わり方を提案するところから始めてみませんか? きっと、新しい協力の形が見えてくるはずです。